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『秋刀魚の味』

7月に入ってからというもの、あまり映画を集中して見ることができなくなりました。自分の将来のことなど不安が大きすぎて、なんだかぼんやりとした気分になって。ツタヤで『スミス夫妻』を借りたのだけどそれもイマイチ楽しめず…しかし『秋刀魚の味』だけは、なぜかすうっと画面に集中できました。
登場人物にはそれぞれの絶望があり、そして彼らがその絶望に向かうとき、きまってキャメラは彼らを横から捉える。たとえばラーメン屋の椅子に腰掛けて寂しげな表情を浮かべ、あるいは涙するヒョウタンとその娘。上の階に住む夫婦に子供が生まれたと聞くと、ふと硬い表情を見せる長男の幸一。そしてラストシーンの笠智衆。彼らはみな横を向いているのだけど、ひとり岩下志麻だけが絶望の瞬間も真正面からキャメラに向かっていることに気づいて愕然とした。ひそかに思いを寄せていた三浦に婚約者がいたことを知らされた後、二階で何をするでもなく、ただ紐を手にしながらたたずんでいる場面。本当に冷たい表情で絶望する岩下志麻を小津は正面から見つめている。小津は何度見ても新たな発見があり、飽きません。